第5編 高分子化合物

第2章 天然高分子化合物

1天然有機化合物 2単糖・二糖類 3多糖類

4アミノ酸 5タンパク質 6核酸

 

 天然有機化合物の種類

生物体の構成する有機物には,〔 糖類 〕,〔 タンパク質 〕,〔 脂質 〕,〔 核酸 〕,〔 ビタミン 〕などがあり,これらを天然有機物とよんでいる。

 単糖類,二糖類

糖類の分類

天然有機化合物の中で最も多く存在しているのが糖類である。糖類は一般式Cm(H2O)nで示される化合物で単糖類,二糖類,多糖類に分類できる。

 
 

【単糖】

これ以上,加水分解されて簡単な糖を生じないものを単糖という単糖類には炭素原子6つからなるC6H12O6(総称してヘキソース)と炭素原子5つからなるC5H10O5(総称してペントース)がある 。      
 

グルコース

グルコース(C6H12O6)はブドウ糖ともよばれ,天然に広く存在する。α-グルコースの1位の炭素原子のように-OH-O-をもつ構造を〔 ヘミアセタール構造 〕という(上図)。この構造が存在すると,水溶液中で一部が鎖式構造を経て〔 β−グルコース 〕を生じ,これら3種のグルコースが一定の割合で混ざった平衡状態になる。鎖式のグルコースには〔 アルデヒド基 〕があるため,グルコースの水溶液は〔 還元性 〕を示す。そのため,グルコースの水溶液は,〔 フェーリング液 〕を還元し,〔 銀鏡反応 〕を示す。鎖式構造にアルデヒド基をもつ単糖をアルドースと総称する。

 
 

 構造式中の太線は手前にあることを意味する。5位のCにつく-CH2OH1位のCにつく-OHが環に対して反対側にあるのがα,同じ側にあるのがβ型である。

 グルコースの構造はベンゼンのような六角形の平面で示しているが,実際にはCCの単結合と,−O−結合でできているので,歪みを生じ右上のような構造になっている。

 

フルクトース

フルクトース(C6H12O6)は果糖ともよばれ,水に溶けやすく,甘味がある。グルコースの構造異性体で,蜂蜜やいろいろな果実に含まれている。フルクトースはヘミアセタール構造があり,水溶液中では六員環構造(ピラノース形),鎖式構造,五員環構造(フラノース形)が一定の割合で混ざった平衡状態になる。また,鎖式のフルクト−スにも還元性がある。グルコースやフルクトースのように還元性を示す糖を〔 還元糖 〕という。また,鎖式構造にケトン基を持つ単糖をケトースと総称する。

 
 

フルクトースのα,βは,五員環構造の5位のCにつく-CH2OH2位のCにつく-OHが環に対して同じ側にあるものがβ型である。フルクトースの −COCH2OH は次のような異性体が平衡状態で存在し,その中にアルデヒド基ができるため還元性を示す(左下)。(補足) 単糖の構造は,炭素原子を省略したり,必要な原子以外すべて省略したりした表し方がよく用いられる(右下)。

 
 

ガラクトース

 グルコースの4位の炭素原子についている-H-OHが逆になった構造(立体異性体)で,ヘミアセタール構造があり,水溶液中では一部が鎖式構造に変化し還元性を示す。

 

アルコール発酵

 単糖類は〔 酵母 〕が作り出す酵素群〔 チマーゼ 〕によってエタノールと二酸化炭素を生じる。これをアルコール発酵という。

〔  C6H12O6 → 2CH3CH2OH + 2CO2  〕

 

例題 グルコースの鎖式構造には不斉炭素原子が何個あるか。また,そのために存在する立体異性体は何種類か。

   不斉炭素原子は*の4つ。不斉炭素原子1つにつきHとOHの配置が異なる立体異性体が2つできるので,立体異性体は2432〔種〕できる。 
 
 

単糖類の鎖式構造と異性体

グルコースとフルクトース

グルコースは鎖式構造中にアルデヒド基を持つ単糖(アルドース)で,フルクトースは鎖式構造中にケトン基を持つ単糖(ケトース)なので,互いに構造が異なる構造異性体である。

D−グルコースとL−グルコース

グルコースの2位〜5位の炭素原子は不斉炭素原子である。そのため,グルコースには互いに右手と左手の関係になる光学異性体(エナンチオマー)となるD型とL型が存在する。グルコースの場合は5位の炭素原子の立体配置をもとにD型とL型を決めている。鎖式構造では,5位の炭素原子のOHが右側,H原子が左側になるものがD型と決められている。D−グルコースとL−グルコースでは偏光面を回転させる性質(旋光性)が異なる。

グルコースとガラクトース

グルコースとガラクトースのD型の鎖式構造は,互いに4位の炭素原子についている −Hと−OHが逆になった構造である。4位の不斉炭素原子の周りの配置が異なるので,D−グルコースとD−ガラクトースは互いに立体異性体である。しかし,235位の不斉炭素原子の周り配置は同じなので光学異性体ではない。このように立体異性体ではあるが,光学異性体ではないものをジアステレオマーという。特にグルコースとガラクトースのように複数ある不斉炭素原子のうち1つだけ配置が異なるものをエピマーという。

 

【二糖】

二糖は単糖C6H12O6 2分子から水分子が取れて結合(縮合)した糖類C12H22O11である。単糖類どうしが縮合してできるエーテル結合を,〔 グリコシド結合 〕という。

 

マルトース

麦芽糖ともいわれ2分子の〔 α−グルコース 〕が,〔 1 〕位の炭素原子につくOHと〔 4 〕位の炭素原子につくOHとの間でH2Oがとれて結合(縮合)することによってできる。右側のα-グルコースの1位の炭素原子につくOHが残っている(ヘミアセタール構造がある)ので水溶液は〔 還元性 〕を示す。

 
 

セロビオース

2分子の〔 β−グルコース 〕が,1位炭素原子につくOH4位の炭素原子につくOHとの間でH2Oがとれて結合(縮合)することによってできる。マルトースと同様に水溶液は還元性を示す。

 
 

スクロース

ショ糖ともいわれ,砂糖の主成分である。〔 α−グルコース 〕の1位の炭素原子につくOHと〔 フルクトース 〕の2位の炭素原子につくOHとの間でH2Oがとれて結合(宿合)することによってできる。この場合,グルコースとフルクトースの還元性を示す構造のところで結合しているので,ヘミアセタール構造がなくなるので,還元性を示さない

 
 
 

ラクトース

乳糖ともいわれ,ほ乳類の乳の中に存在する。β-ガラクトース1位の炭素原子につくOHα-グルコース4位の炭素原子につくOHの間でH2Oがとれて結合(縮合)することによってできる。α−グルコースの1位の炭素原子につくOHが残っている(ヘミアセタール構造がある)ので水溶液は還元性を示す。

                

【二糖類の加水分解】

二糖類は希酸(希塩酸など)を加え加熱したり,酵素を作用させたりすると,加水分解し構成する単糖類の混合溶液になる。特にスクロースを加水分解したときにできるグルコースとフルクトースの混合物を〔 転化糖 〕という(旋光性が右旋性から左旋性に変わるから転化糖)。また,酵素は生体内で産生されるタンパク質で,特定の物質に特異的に作用しその物質の分解を触媒する

 
 

例題 グルコース0.10mol,マルトース0.20mol,スクロース0.30mol,ラクトース0.50molを含む混合水溶液Aがある。この溶液Aを酵素を用いて完全に分解したところ,0.40molのグルコースが含まれていた。

1 加えた酵素は何か。1つまたは2つ答えよ。

2 この溶液Aにマルターゼを作用させ完全に分解した後に,チマーゼを作用させると生じる気体は標準状態で何Lか。

   

1 インベルターゼ  問2 22.4L

 マルトース0.20mol,スクロース0.30mol,ラクトース0.50molを加水分解すると,それぞれ,グルコース0.40mol,グルコースとフルクトース0.30molずつ,グルコースとガラクトース0.50molずつ生成する。この場合,初めから含まれているグルコースと合わせて0.40molなので,この酵素で分解されたのはマルトースである。よって,酵素はインベルターゼである。

 溶液Aにマルターゼを作用させると,マルトースが分解されるので,グルコースは初めから含まれるものと合わせると,0.50molのグルコースが含まれている。チマーゼによるアルコール発酵(C6H12O6 → 2CH3CH2OH + 2CO2)では,グルコース1molからCO2 2molが気体として発生するので,グルコース0.50molではCO2 1.0mol(=22.4L)が発生する。